
創業から60年以上にわたり築き上げた「冷間鍛造」による特注部品は5万件以上という
福井県の最北端に位置するあわら市に本社を構え、自動車部品や家電・通信機器などに使用される電子部品など、微小・特殊形状のメタルパーツメーカー。社名にある鋲(びょう=くぎやリベット)、螺(ら=ねじ)などを約8,000種類、年間120億本以上を製造している。熱間/温間鍛造では金属材料を加熱して加工するが、福井鋲螺は常温のまま成形する「冷間鍛造加工」が最大の特徴だ。鉄やステンレス、アルミや銅、真鍮などの材料を常温のまま金型に入れ、圧力を加えることで変形させて目指す形状にする。材料を削らず加熱もしないため、加工時と冷めた時の形状に変化がなく、製品によっては1,000分の1mm単位の高精度な加工ができるうえ、低コストによる高速生産を可能としている。2025年3月に就任した打本純也代表取締役社長は「創業期からの冷間鍛造技術を受け継いでいる。既存の製品を売るのではなく、顧客の要望に対して提案を行い、オーダーメイドの製品をスピーディーに提供できることが当社の強みだ」と話す。顧客の要望に最適な技術提案を行い、開発から試作・量産まで一貫生産体制を構築している。
2025年度の売上構成は自動車分野が77%、次いで家電・通信12%、建築5%、医療2%、その他4%が続く。2008年のリーマンショック以前は、テレビや携帯電話など家電・通信分野が7割を占めていたが、その時代ごとに勢いのある産業・分野へ自社の技術を適合させてきた。メタルパーツは完成品の内部に組み込まれることが多いため消費者が直接目にする機会はあまりないが、身の回りにあるものでは、蛍光灯の両端についている端子ピンの世界シェアは8割を占める。アルカリ乾電池に不可欠な集電子の世界シェアは3割。ボールペンの先端のボールを支える部品や眼鏡の鼻当て留め金具など枚挙にいとまがない。
中空リベット開発がきっかけ 製造機械を内製する強み

創業当初に内製化した「中空リベット」の製造機械について語る打本社長(福井鋲螺本社で)
福井鋲螺は1959年(昭和34年)に現社長の祖父にあたる打本幸吉氏が創業した。当初は長尺ねじを製造していたが、高性能な機械が普及したことで、激しい価格競争にさらされた。そこで創業者は、頭部と軸があり、軸の先端に穴が開いている「中空リベット」の開発に乗り出した。当時は外側を冷間鍛造で成形し、軸の穴はドリルで一本ずつ開ける手法が一般的だった。テレビなどの家電の普及期に顧客から「より小さいリベットが欲しい」との要望を受けた。打本社長は「穴開けまで一体で成形する機械を、当時の月商より高い値段で無理して海外から購入したと聞いた」といいます。増産要請を受けたものの、「2台3台と購入するわけにもいかず、ヘッダーマシンを自前でつくった」と説明。金型だけでなく、製造機械・設備自体も内製化する同社のものづくりの基礎が構築された。1990年代に入って、蛍光灯ピンの製造工程を冷間鍛造で完結させる機械を開発したことが、二つ目の大きな転機となった。
金型や生産機械の9割以上を自社で製造する内製型企業として、同社は高精密・高付加価値のモノづくりを追求している。「一つの製品や市場にとどまることなく、技術を磨きながら新たな分野へ挑戦しつづける」という創業以来のこだわり、文化がある。高い技術力で新たな市場を創造することが同社の基本戦略だ。5万件に上る開発実績とそのデータに裏付けられ、誰にもまねできない技術にチャレンジし続けてきた歴史が「メタルパーツ イノベーター」を自任させる。

欧風のデザインが特徴的な福井鋲螺本社(福井県あわら市)
地元で安定雇用を 福井・石川出身者が94%
創業の地である福井県あわら市に主力の製造拠点「細呂木事業所」と「NL工場」、石川県羽咋市に「能登工場」を開設した。1985年3月に打本幸雄・現会長が2代目社長に就任した後は石川県加賀市に「加賀工場」と「片山津工場」を順次開設し、生産能力を高めてきた。2013年にはタイに生産工場を新設したが、国内の生産拠点は福井、石川両県に置く。2005年に本社を現在地に移転した。広々とした芝生が広がる敷地に、欧風のデザインを取り入れた特徴的な外観が目を引く。「ねじ屋でもこんなにきれいな職場で働けるのだ。製造業に対する3K職場のイメージを払拭したい」という会長の強い意向が反映されたという。各工場内も明るく空調が利いた快適な作業現場を整備している。
福井鋲螺は「より良き品を創意と熱と人の和で」を基本理念に掲げる。社員1人1人が持つ創造力や技術力、業務品質を「人の和」をもって結集させることによって、常に「より良き品」を社会に提供する企業であり続けたいという願いを込める。社員の出身地は福井県66%、石川県28%で94%を占め、打本社長は「技術者を地元で安定雇用し、福井、石川の地で製造したものを世界へ届けていく」と抱負を語る。世界に通用する優れた技術・製品を産み出す会社であることを積極的にアピールした結果、直近の応募者は前年比1.4倍に増加しているといい、手ごたえを感じている。

福井鋲螺で受け継いできた基本理念について説明する打本社長
自動車部品向けで成長 厳しい品質追求が学びに
福井鋲螺の売上高は、2026年12月期も引き続き増収を見込んでおり、達成すれば6年連続の増収となる。利益面でも着実に成長している。売上構成の自動車シフトが進むなかで、制御の電子化が広がり、微小で精密な部品の需要が高まっている。シートベルト、スピードメーター、シフトレバー、ドラムブレーキなどの自動車部品には同社の鍛造パーツが使用され、その数は2000種類にも及ぶという。ワイパーの金具同士の締結に使用される中空リベットは、リベット製造での「冷間鍛造技術」とリベットセッター(締結用機械)を組み合わせて提供している。ワイパーの滑らかな動作に重要な支点の役目を果たし、締結不具合のない安全性も確立している。打本社長は「自動車関連は命を預かるような部品だけに、100万本に1個の不良もないように」という厳しい品質水準が求められる。2000年代初めごろまでは肉眼で判別していた傷が、今は40倍の顕微鏡で見られているとし、一層の品質重視への学びと成長につながっているという。

屋上に5,236枚の太陽光パネルを設置して自家消費でCO₂排出量を削減(細呂木事業所)
工場に太陽光パネル GXは環境にも経営にもよし
一方、自動車産業では2020年にEUの欧州電池規則の草案が発表され、規則への対応が喫緊の課題となっている。脱炭素化に向けて、欧州市場で販売されるEV用のバッテリーなどを対象に設計から生産、廃棄までのCO₂総排出量の上限値が設定される。車載電池部品は、打本社長が今後大きく伸びると予想し、最も期待する製品の一つ。同社は、売り上げ当たりのCO₂排出量を毎年1%ずつ削減する地道な省エネ活動を推進してきたが、同社が目標とするカーボンニュートラル達成には限界があり、2021年から自社工場への太陽光パネル設置を進めてきた。細呂木、加賀のほか、片山津の拠点でも2026年から本格稼働しており、現状ではグループ全体の電力使用量の約20%をまかなっている。省エネと太陽光発電のほかに、再生可能エネルギーの購入を加えた。
打本社長は「GX(グリーントランスフォーメーション)活動を重要な経営課題と位置づけ、協力会社にも呼びかけて一緒に取り組んでいる」と説明している。原料段階からの製造、廃棄、リサイクルに至るまでのライフサイクル全体にCO₂排出の規制の網がかかるため、規制に適合しない場合には他社への発注に切り替えられる懸念がある。顧客側からの要請を見越した動きといえるが、打本社長は「GX推進は単なる環境対策にとどまらず、会社の利益向上に直結する経営改善活動である」という認識を示しており、協力会社とともに成長してコスト削減やブランド価値向上などの効果につなげる考えだ。

細呂木事業所入り口のディスプレーに表示されている太陽光発電状況
【企業情報】▽公式サイト=https://byora.co.jp/ ▽代表取締役=打本幸雄会長、打本純也社長 ▽従業員数=675名(2025年12月時点)▽資本金=4億5000万円 ▽事業内容=特殊形状の精密鍛造パーツ及びファスニング製品と省力機器の製造・販売 ▽創業=1959年
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