少子高齢化やグローバル化が進む中、働く人の性別や年齢、障害の有無などにかかわらず、多様な人材を活かし、イノベーションを生み出す「ダイバーシティ経営」は、人材を資本と捉えて企業の中長期的な成長につなげる人的資本経営に欠かせない考え方だ。近年は、ダイバーシティ経営の要素である「Diversity(多様性)」「Equity(公平性)」「Inclusion(包括性)」の頭文字を組み合わせた「DEI(ディー・イー・アイ)」という略称も広まっている。
人的資本経営について考える特集の最終回は、DEIの意義について整理するとともに、パナソニックエレクトリックワークス(パナソニックEW、本社:大阪)の取り組みを紹介しながら、組織風土の醸成や体制づくりなどについて考える。

働き手と企業の関係変化とDEI
一般社団法人日本能率協会が2024年度に全国の主要企業5074社の経営者を対象に実施、470社が回答した調査によると、経営課題に「人材の強化」を挙げた割合が最も高かった。調査時点から3年後、5年後の課題を尋ねても同様だったという。背景には、男性中心で同質性の高さが評価されていた時代から、多様性や個人の価値観を重視する時代へと変わりつつあり、働き手と企業の関係も「選び、選ばれる関係」へと変化していることがある。このような変化も踏まえ、経済産業省では、多様な人材をいかし、 その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出して価値創造につなげる「ダイバーシティ経営」において、DEIを以下のように定義している=表、クリックで拡大=。
DEIの推進は、新しい商品やサービスの開発による顧客満足度の向上や市場の評価、業務の効率化や優秀な人材の獲得など、様々な効用をもたらすと期待されている。ただし、多様性にやみくもに対応するだけでは、企業の競争力強化につながらない。大切なのは、従業員一人ひとりが自分らしさを発揮し、かつ、職場への帰属意識を高く感じられる環境をつくり出すことだ。
<DEI推進で期待される効用>

パナソニックEW 「DEIは経営の大前提」
パナソニックEWの栗山幸子DEI推進室長=写真=は、「DEIは経営の大前提」と話す。同社は、照明や社会インフラを支える電気設備などの開発・製造・販売を手がけている。DEIを経営戦略の根幹に据えるのは、全ての社員が活躍し身体的・精神的・社会的によい状態である「Well-being(ウェルビーイング)」を実現し、多様な価値観を認めることが事業競争力の強化をもたらすと考えているからだ。

競争力が高まれば、同社の製品やサービスを採用したいと思う顧客が増え、顧客との関係性がより強固になる。「お客様の成功」は社会の発展につながり、同社もまた企業として果たすべき使命を達成し、存在意義が高まる=図=。栗山室長は、「お客様や社会全体のウェルビーイングを実現するには、そこにつながる私たちのウェルビーイングが欠かせない」と説明する。実際、同社は、東京・汐留のオフィスにウェルビーイングの考え方を取り入れたコンセプト空間「workXlab」を設けている。ここでは、光や音、気流といった人が五感で感じる環境を状況に応じて効果的に調整できる設備や、多様な社員たちが気軽にコミュニケーションを図れる空間設計を取り入れるなどの工夫が凝らされている。
<DEIを経営の根幹に据えるパナソニックEWの考え方>

(パナソニックEWの資料から)
誰もがわかりやすい言葉で認知向上
パナソニックEWでは、大瀧清社長が2021年10月の社長就任と同時にDEIを経営戦略の根幹に据えることを表明、2022年4月にDEI推進室が設置された。しかし、当初は「DEIという言葉にピンとこない社員が多かった」(栗山室長)といい、そこで考えたのが、誰もがわかりやすい言葉で認知度の向上を図ることだった。DEIを「D=誰もが」「E=遠慮は無しに公平に」「I=一緒にイキイキと働ける」との日本語に置き換え、金太郎と宇宙人をモチーフにしたロゴマークも制作。金太郎には、どこを切っても同じ絵柄が現れる金太郎飴にちなみ、画一性・均一性の象徴としての意味が、宇宙人には異質性や多様性を認容することの大切さが込められているという。

(パナソニックEWの資料から)
トップダウンとボトムアップの双方から
パナソニックEWでは、DEIをトップダウンとボトムアップの双方で推進する体制を整えているのが特徴だ。まずDEI推進室は、社長の直轄組織と位置づけられた。メンバーは、独立した立ち位置でトップ層と意見交換ができるという。また、推進の方向性を決め、会社としての意思決定を行う「DEIステアリングコミッティ」では、社長のほか各部門の担当役員も参加して議論する。経営層がDEIに関心を持って理解することで、その後の社内施策の展開がしやすくなっているという。
一方、同社は単体ベースで1万人を超える従業員を抱えることから、各現場レベルでDEIに取り組む「推進リーダー」を約300人選任している。栗山室長は、「推進リーダーには、職場の事情や特性を踏まえ、勉強会の開催やコミュニケーションの強化といった推進活動を自ら考え、自席の半径5m以内にいるような身近な同僚たちとDEIに取り組んでもらうことが期待されている」と話す。
<トップダウンとボトムアップを組み合わせた推進体制>
この他にも、社長や幹部が現場の声を吸い上げるタウンミーティングや、女性の役員や管理職らがジェンダーに関する課題を議論したり、社内人脈を広げたりする「女性基幹職カンファレンス」なども開催されている。
業務改革とセットで取り組む
DEIの推進では従業員の知識面での理解を深めるだけでなく、実際に柔軟な働き方を実現する具体的な制度や仕組み作りも重要だ。パナソニックEWでは、例えば、男性の育児休業の取得推奨期間を2025年度から2か月に設定して、長期での取得を後押ししている。また、男女とも子どもが1歳になるまでに14日以上の育児休業を取得した場合、最大で30日分を有給休暇として扱い給与を支給する。さらに、仕事と育児の両立をサポートする風土を醸成するため、育休取得者と職場メンバーの交流会に費用を支援する制度もある。
ただ、制度があっても利用されなければ意味が無い。育休を取得すると同僚の仕事が増え、迷惑をかけてしまうのではないかと懸念するケースもあることから、栗山室長は「周りにしわ寄せがいかないよう、業務改革による効率化も同時に進めることを心がけている」と語る。
DEI推進の目的を見失わない
DEI推進室が設置されてから約4年半。社内での認知度向上などで一定の成果を挙げたパナソニックEWだが、栗山室長は「取り組みは道半ば」と話す。企業におけるDEI推進の最終的な目的は、「多様な人材の活躍によるイノベーションを起こし、ビジネスにつなげること」と考えているからだ。

同社は今後、社員が「DEIという言葉を知っている」状態から「具体的な行動に踏み出す」ステージへと進化させると同時に、国内外の連結企業を含めたグループ全体にDEIを浸透させて競争力を高め、業界のリーディングカンパニーを目指す方針だ。
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ダイバーシティ経営を推進する経産省の取り組み
経産省は、企業価値の向上につながるダイバーシティ経営の考え方や具体的アクションをまとめた「企業の競争力強化のためのダイバーシティ経営(ダイバーシティレポート)」を2025年4月に公表。さらに、実践編との位置づけで2026年4月、「ダイバーシティ経営推進に向けて企業に求められる具体的アクション実践事例集」=写真=を公開した。

この実践事例集では、今回取り上げたパナソニックEWを含む各社の取り組みのポイントに加え、ダイバーシティ経営を推進する担当者のリアルな声などを紹介している。中堅・中小企業に向けた「ダイバーシティを経営の力に!~中堅・中小企業の取組事例集~」も2026年8月に公表した。
また、女性活躍推進はダイバーシティ経営の中でも重要なテーマの一つだが、経産省は東京証券取引所と共同で、女性活躍推進に優れた上場企業を「なでしこ銘柄」として選定する取り組みを2012年度から実施している。2026年度からは「殿堂入り制度」を創設し、なでしこ銘柄選定企業の中で、継続的に高い水準で女性活躍推進に取り組み、優れた成果を挙げている企業を「殿堂入り企業」として認定する。殿堂入り企業が誕生した業種では、この企業とは別になでしこ銘柄を選定することになる。実質的な選定枠が拡大し、より多くの企業に選定されるチャンスが広がるという。
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