2026年9月7日 投稿(2026年9月7日 更新)

女性の思いを実現する起業を支援 経済産業省が展開する「GIRAFFES JAPAN」とは

人材を資本と捉え、多様な人材の力を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる「人的資本経営」が注目される中、女性の活躍の場を広げることは企業のみならず、日本経済全体の成長にとっても重要な課題だ。特に起業は、新たな産業やイノベーションを生み出す担い手として期待されるが、女性起業家の割合は依然として低い。そこで、経済産業省は2024年度から、女性起業家支援事業「GIRAFFES JAPAN(ジラフス・ジャパン)」を実施。全国各地で女性起業家と支援者のマッチングを図るビジネスプラン発表会「RED(Regional Entrepreneurship Design)」の開催やネットワークの構築などに取り組んでいる。

今回の特集では、2025年度の「RED」で九州地区のファイナリストに選ばれた化粧品会社「ORARE(オラレ)」(福岡市)の創業者で社長の権藤菜津姫さんと、GIRAFFES JAPANのサポーター企業であるキヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)でDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)領域の新規事業創出に取り組むグループマネージャーの西塚まどかさんに、女性の想いを実現する起業とGIRAFFES JAPANの取り組みについて語ってもらった。司会進行は、経産省経済社会政策室の太田優和さん。

(左から)オラレの権藤さん、キヤノンMJの西塚さん、司会進行を務めた経産省の太田さん

起業支援は女性エンパワーメントの一つの形

太田 経産省が展開するGIRAFFES JAPANのGIRAFFESとはキリン(Giraffe)の複数形で、「キリンのように高い視座で未来を見ながら、多くの仲間と助け合って共にビジネスを展開する女性起業家を日本中で応援する」との意味を込めています。権藤さんと西塚さんはそれぞれの立場でGIRAFFES JAPANと関わっていただいていますね。自己紹介をお願いします。

権藤 私が社長を務めるオラレは、100%天然由来原料にこだわる化粧品会社です。外資系製薬会社を退職し、2024年に設立しました。自社工場を構え、自社ブランドのせっけんや美容オイルなどの製造・販売と、OEM(相手先ブランド商品の受託製造)が事業の二本柱です。

起業のきっかけは、妊娠・出産を機に、赤ちゃんや産後の女性が安心して使えるナチュラルスキンケアの少なさを実感したことです。そこで、大学で学んだ微生物学と、製薬会社で新薬の上市に携わった経験を生かし、肌へのやさしさに配慮した100%天然由来のスキンケア商品の選択肢を日本にも増やしたいと考えました。また、地域資源をもっと化粧品原料として生かし、日本のものづくりを次世代につなぐとともに、その価値を全国、そして海外へ届けたいとも考えました。産休・育休中に九州大学ビジネス・スクールでMBAを取得。在学中は400人を超える母親を対象に市場調査を行い、ビジネスプランを練って起業しました。2025年度の「RED KYUSHU」では、ファイナリスト10人の一人に選ばれました。

権藤さんが参加した「RED KYUSHU」(2026年2月、大分県別府市で開催。GIRAFFES JAPANのホームページから)。REDは、女性起業家と賛同する支援者とのマッチングを図るイベントで、2025年度は全国6カ所で開催された。

西塚 私は、グローバルに事業を展開するキヤノングループの国内マーケティングを担うキヤノンMJで、DE&I領域における新規事業創出に取り組んでいます。女性が自信を持ち、知識やスキルを身につけ、社会の意思決定や経済活動に主体的に参加できる力をつける「女性エンパワーメント」の推進に加え、障害者や外国人、シニア層が働きやすくなるようなソリューションを、事業として社会に提供しようと活動しています。女性起業家支援は、女性エンパワーメントにおける取り組みの一つです。

女性ならではの生活者の視点にはビジネスに結びついていないものがたくさんあり、女性の起業支援が日本の成長の伸び代を広げることにもつながると考えています。キヤノンMJは、GIRAFFES JAPANにサポーター企業として参画しており、権藤さんの事業の成長を支援しています。

起業の課題とGIRAFFES JAPAN

太田 独立・創業時における女性の割合は3割を超えるものの、新しい技術やイノベーションで急成長を目指すスタートアップ起業家における女性の割合は少なく、新規上場企業に占める女性社長の比率は数%にとどまっていると言われています。権藤さんは、事業化にあたってどんな課題や悩みがありましたか。また、REDへの参加を通じて、どのような支援や成果を得られましたか。

権藤 起業後の課題は、大きく分けて二つありました。資金繰りと、一般消費者向けのマーケティング戦略です。特に1年目は、設備投資や開発費に加え、製品の安全性等を確認する各種試験に、想定以上の費用がかかりました。また、化粧品では、その製品が自分の暮らしにどのような価値をもたらすのかを想像してもらうことが重要です。創業当初は、製薬会社で培ったエビデンス重視の姿勢が前面に出て、説明が堅苦しくなり、製品の魅力を十分に伝えられていなかったように思います。

そこで私は、成長を後押ししてくださる支援者とつながりたい、また、オラレの取り組みを世に広めたいと考え、REDに応募しました。REDの魅力は、経産省の事業であるという信頼性と、セミファイナリスト以上に選出されると、事業計画のブラッシュアップに繋がるメンタリングを受けられる点です。九州ブロックのファイナリストに選ばれた私は、メンターから自社の強みや課題を指摘していただき、支援者への伝え方についても助言を受けました。

また、全国の女性起業家や様々な支援者とのネットワークができたことも大きなメリットです。実際、事業拡大に必要な外部資金の調達に関しては現在、会計事務所やベンチャーキャピタルといった専門家のアドバイスを受けながら進めています。

太田 西塚さんは、権藤さんのプレゼンテーションからどんな可能性を感じましたか。

西塚 まず、「わが子には安心安全な商品を使いたい」という権藤さんの強い思いと、自ら起業した行動力に心を動かされました。また、科学的なエビデンスを重視する姿勢や、自社工場による製造から販売まで一貫体制を構築している点に可能性を感じ、REDでキヤノンMJから権藤さんに「サポーター賞」を提供しました。メンタリングのほかにも、私たちが知っている支援者に直接つないだり、大阪で事業や製品をアピールする機会を設けたりといった支援をしています。

全国に広がるネットワーク

太田 「REDへの参加をきっかけに、全国の女性起業家やさまざまな支援者とのネットワークが広がった」とのお話がありましたが、こうした支援者とのネットワークや伴走支援にはどのような意義があると感じますか。

(GIRAFFES JAPANのホームページから)

権藤 私自身、特に地方では身近にロールモデルとなる女性起業家と出会う機会が限られていると感じています。そうした中で、支援者だけでなく地域の金融機関や自治体などともつながれることは心強いです。また、育児や介護などとビジネスの両立に悩む女性も少なくありません。私は、こうした女性特有の事情を共有できる場を得られたことにも感謝しています。

支援する側の意見 「女性であることを意識しすぎない」

太田 西塚さんは、女性起業家を支援する意義をどのように考えていますか。また、女性特有の課題や、支援する際に気をつけていることを教えてください。

西塚 私は、「誰もが自分らしくやりがいを持って挑戦できる社会を日本だけでなく、世界中に広げていきたい」との思いを込めて、キヤノンMJでDE&I領域における新規事業創出に取り組んでいます。女性起業家支援はその文脈においてとてもやりがいのある分野で、多くの女性起業家と対話を重ねる中で主に三つの共通する課題が見えてきました。

権藤さんが指摘した通りですが、一つ目は、ロールモデルが身近にいない点です。二つ目は、資金調達の相談先が乏しい点。三つ目は、子育てや介護などのライフイベントとビジネスとのバランスをどう図るかです。GIRAFFES JAPANではこうした課題に対し、支援者や女性起業家の先輩たちが、実体験をもとにアドバイスできる体制が整えられていると思います。

一方で、私が女性起業家を支援する際に意識していることも三つあります。一つ目は、「女性であることを意識しすぎない」ことです。矛盾していると思われるかも知れませんが、私たちは、一人ひとりの起業家が実現したい事業に真剣に向き合い、一緒に考えていきたいのです。そこに性別の違いはありません。二つ目は、助言した以上は支援者のその後の決定にも関心を持って対応することです。三つ目は、「押しつけ」の支援をしないことです。私たちは伴走者であって、決断するのは起業家自身。本人が納得して事業に取り組むことが大切だと考えています。

起業による社会課題の解決 「勇気を持って挑戦を」

太田 GIRAFFES JAPANはこれまでREDで全国から計100人のファイナリストを輩出するとともに、ネットワークイベントでは延べ3400人以上の方に参加していただきました。また、2026年度のREDも全国でエントリーが始まっています。後に続く女性起業家たちへのメッセージをお願いします。

権藤 私は、REDに挑戦したことで人生が大きく変わり、素晴らしい仲間や支援者に恵まれました。女性だからこそ気づく社会課題は世の中にたくさんあります。起業には困難も伴いますが、その課題を自らビジネスに昇華させて解決を図ることは、とてもやりがいがあります。勇気を持って挑戦してもらえたらうれしいです。

西塚 起業家支援は、支援する側から支援される側への一方通行的なものではありません。起業家の社会問題に対する高い関心や事業化への情熱が双方向に行き交い、私たちも身の引き締まる思いです。ビジネスプラン発表会では、起業家の熱い思いを直接感じることができるので、支援する側の立場の方もぜひ、足を運んでみてください。支援したくなる「将来の星」がきっと見つかると思います。

◇   ◇   ◇

企業における女性リーダーを育成する勉強会「WIL」

女性活躍を含めた人材戦略の推進は、多様な視点を生かした商品・サービスの創出や、グローバル化が進む社会への対応などの観点から、組織の持続的な成長に欠かせない。近年、経営層や管理職への女性登用も着実に進んでおり、内閣府男女共同参画局が2026年7月に公表した「女性活躍・男女共同参画の現状と課題」によると、全上場企業の役員に占める女性の割合は2025年で14%と、2021年の7.5%からほぼ倍増した。政府は、東証プライム市場上場企業を対象に、「2030年までに、女性役員比率を30%以上とすること」を目指している。

一方で、経産省によると、企業側からは「女性幹部のロールモデルが少ない」「管理職以上を担える人材が十分に育っていない」といった課題が挙げられるという。こうした課題に対応するため、経産省は、将来のリーダー候補となる女性を企業横断的に募る勉強会「Women‘s Initiative for Leadership」(略称:WIL)を2015年度に創設。政策的観点など経営層に必要な知見を学ぶとともに、業界や企業の枠を超えたネットワークを築く機会を提供している。

第11期となる2026年度のWILは7月にスタートし、上場企業52社から主に部長級の女性が参加している=写真、クリックで拡大=。メンバーは、勉強会への参加とともに成果報告会に向けてグループごとの政策研究などに取り組み、次世代の経営人材として求められる視点やリーダーシップを磨くという。

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