2026年10月6日 投稿(2026年10月6日 更新)

枯渇する産業用地!改正地域未来法で自治体・民間の開発を支援

インフレの進行や人口減少、経済安全保障環境の悪化など、社会情勢が変化する中、日本の産業競争力を強化し供給網の強靱化を図るには、企業の活動を発展させていくことが重要となる。2026年7月に閣議決定された「日本成長戦略」では、2040年度の設備投資額の官民目標が、従来の200兆円から250兆円に引き上げられた。同じ時期に閣議決定された「地域未来戦略」でも、日本列島を強く豊かにするために、地方に大規模な投資を呼び込み、相互に関連する企業や研究機関が集積する産業クラスターを各地に戦略的に形成していくことが打ち出された。その一方、企業の事業拡大に不可欠な産業用地は枯渇しつつあり、新たな用地の確保が喫緊の課題となっている。

今回の政策特集では、経済産業省が取り組む産業用地整備支援策を取り上げる。初回は、国内の産業用地の現状と、改正された地域未来投資促進法(地域未来法)の変更ポイントについて解説する。

産業用地の整備支援などに取り組む経産省地域産業基盤整備課と同地域経済産業政策課のメンバー

「投資の受け皿」の産業用地…「分譲可能」が10年間で半減

経産省地域産業基盤整備課によると、日本で主に工場や倉庫、物流施設などに使われている産業用地(工業用地)は2020年時点で16万㏊と、国土面積(3780万㏊)の0.4%に過ぎない。新たに建設されたり、拡充されたりする工場は、近年では年間800~900件、1200~2000haで推移しているという。それでも、投資の受け皿である産業用地は不足してきている。経産省が2023年、各都道府県と政令市を対象に行ったアンケートで「新たな産業用地の開発がなかった場合の分譲用地の供給見通し」を尋ねたところ、約8割が「5年以内に枯渇が見込まれる」と回答した。「工場立地を検討する企業などからの問い合わせに応えられる用地を確保できていない」と答えた42府県について、一般財団法人日本立地センター(東京)の資料を基に分譲可能面積を集計した結果、2013年からの10年で半減していたという。

<都道府県・政令市で新規の産業用地開発がない場合の供給見通し(左)と、用地が確保できていないとする42府県の分譲可能面積>(2023年時点)

用地・資金・人材…複合的な課題

こうした状況を背景に、経産省のアンケートでは多くの都道府県や政令市が新たな産業用地の造成に関心を示していた。しかし、同時に、用地や資金の確保に加えて、工業用水の整備や開発ノウハウを持った職員の不足といった課題も浮き彫りになった。

<都道府県・政令市が産業用地を造成する際の主な課題>(複数回答)

都道府県・政令市が産業用地を造成する際の主な課題

また、交通の便がよく、造成時期が比較的新しい産業用地の分譲が順調に進む一方で、長期間活用されていない用地があることも経産省の分析で明らかになっており、既存用地を最大限に活用する工夫も求められている。

同課の長山美由貴課長補佐=写真=は、「投資の受け皿となる産業用地が自治体や民間であらかじめ整備されていれば、企業のスピーディーな投資判断につながる。2040年度に向けて国内投資のアクセルをより強く踏もうとしている今こそ、用地整備の機運を高める必要がある」と強調する。

地域未来法改正…「既存用地の活用」「計画承認制度創設」の観点で

地域未来法は、その地域に経済的効果をもたらすような企業の事業を支援するため、2017年に制定された。支援する事業は、地域の産業集積や特産物、技術といった特性を生かし、高い付加価値を創り出していく取り組みで「地域経済牽引事業」と呼ばれる。今回の改正では、既存用地を活用しやすくする諸条件の緩和と、地域未来法の基本計画に基づいて、都道府県・市町村などが地域経済牽引事業のための産業用地の整備に関して作成する「地域経済牽引事業用地整備計画」のスキーム創設に伴う支援策が盛り込まれたのが特徴だ。改正法は2026年6月に公布され、この秋の施行が予定される。主なポイントを四つ紹介する。

1)緑地規制で特区同様の緩和を可能に

既存用地の有効活用を図るため、改正法はまず、周辺の生活環境の保持と地元の理解を前提に、地域経済牽引事業にあてはまると承認された工場などについて、工場立地法のいわゆる緑地規制を特例で緩和する。

工場立地法は、工場などの敷地内に一定の割合で、樹木や芝生などが生育する緑地や、公園、運動場、太陽光発電などの環境施設を整備することを求めている。面積率は、国が定める一定の基準に加え、地域の実情に応じて市町村が条例で、「国が定めた範囲内で定める基準」、「特区を対象に独自に定める基準」で規定することも可能とされている。今回の地域未来法の改正では、地域経済牽引事業の工場などについては、敷地外での緑地整備や環境教育活動の実施など、周辺の生活環境の保持に役立つ取り組みを行う場合、特区と同様、市町村が条例で独自に基準を定められるようにする。

<緑地規制の特例緩和のイメージ>

特例措置の概要

2)データセンターへの工業用水供給義務づけ

二つ目のポイントは、地域経済牽引事業を行うデータセンターを給水区域内に持つ工業用水道事業者に対し、 上水道に比べてコストが低い工業用水を、給水義務のある形でデータセンターに供給させられる特例措置を講じることだ。

データセンターは、インターネット用のサーバーや通信機器などの設置・運用に特化した建物で、近年は機器の冷却のため、冷却能力の高い水を使う方式が増えているとされる。現行の工業用水道事業法で「工業」と定義される業種にデータセンターが含まれていないため、工業用水の余剰がある場合にのみ供給されている。データセンターの重要性が増す中、地域未来法の特例措置という形で、地域経済牽引事業を行うデータセンターへ工業用水を安定的に供給できるように条件を改善する。

3)中小機構による低利融資・伴走支援

三つ目のポイントは、独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)による産業用地整備支援の強化で、都道府県や市町村、土地開発公社による用地整備を、資金面、ノウハウ面の両面から支援する。必要な資金の貸付けでは、地域経済牽引事業用地整備計画が、都道府県知事または経済産業大臣に承認されることが要件となる。また、造成工事や企業誘致の専門人材によるアドバイスなどの伴走支援に加え、相談窓口の設置が決まっており、これらは地域経済牽引事業用地整備計画を作成しようとする者も支援の対象になるようにした。

<資金支援のイメージ>

(中小機構のホームページから)

<伴走支援のイメージ>

(中小機構のホームページから)

「日本成長戦略」で掲げる2040年度の設備投資額の官民目標250兆円を達成するためには、産業用地を計画的に整備することが求められる。中小機構の支援は、資金や人材の不足など多くの自治体が抱えている産業用地整備の課題の解決に役立つとみられている。

4)官民連携で整備を進める際の土地譲渡課税の特例

地域未来法の改正に合わせて租税特別措置法も整備され、自治体と連携して産業用地を整備する民間の開発事業者に、整備予定地の地権者が土地などを譲渡した場合、譲渡所得に関する所得税率などを軽減することが盛り込まれた。地域経済牽引事業用地整備計画が承認されていることが要件で、軽減後の税率は、譲渡所得2000万円以下の部分について14%(所得税10%+住民税4%)になるといい、原則の20%(所得税一律15%+住民税5%)から6ポイント下がる。適用期限は2028年12月末まで。経産省は、今回の法改正により、地権者から民間開発業者への土地譲渡のインセンティブが高まり、官民連携の産業用地整備がよりしやすくなることを期待している 。

<所得税率軽減と官民連携案件のイメージ>

(クリックで拡大)

産業用地の整備と「地域未来戦略」

産業用地の整備促進は、2026年7月に閣議決定された「地域未来戦略」とも密接な関係にある。

地域未来戦略は、「47都道府県のどこに住んでいても、安全に生活することができ、必要な医療・福祉や質の高い教育を受けることができ、働く場所がある社会を実現する」ことを目標に掲げるもので、そのためには、「強い地域経済の構築が不可欠」としている。政府が重点を置く17の戦略分野への官民投資を促す「日本成長戦略」と並行し、地方に大規模な投資を呼び込み、各地に産業クラスターを戦略的に形成することを狙っている。経産省地域経済産業政策課の山中悠揮課長補佐=写真=は、「『日本列島を、強く豊かに』していく土台になるのが、産業用地だ」と話す。

地域未来戦略で進める産業クラスター計画は3種類ある。「戦略産業クラスター計画」は国が策定するもので、17の戦略分野に関連する企業の大規模投資を核として、国が一歩前に出て、大胆な投資促進策と道路や工業用水といったインフラ整備などを一体的に進めるのが特徴だ。「地域産業クラスター計画」は都道府県などが策定し、海外輸出により外貨を獲得する可能性がある産業や、国内市場で上位のシェア獲得を目指せる産業を重点育成する。「地場産業成長プラン」は市町村などが策定し、地場産業を含む地域の産業を育成する。これまでに、例えば、「戦略産業クラスター計画」では2026年8月末時点で、半導体や空飛ぶクルマ、洋上風力などで計14件が策定された。「戦略産業クラスター計画」に加え、「地域産業クラスター計画」「地場産業成長プラン」への関心も高まっているという。

<戦略産業クラスター計画>(2026年8月末時点)

(地域未来戦略の資料をもとに作成。クリックで拡大)

地域未来戦略は、2014年に本格的に始まった地方創生の取り組みに加えて、産業クラスターを全国各地に形成し、地方から日本を成長軌道に押し上げる。地域未来戦略と連動した、今後の産業用地整備の取り組みが期待される。

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