2026年8月4日 投稿(2026年8月4日 更新)

理科教師×俳優志望→実験系YouTuber元気先生に。科学好きな子を増やし元気な日本を!

「元気先生」と呼ばれて子どもたちに人気の“実験系YouTuber”で、目の前で科学実験を行って楽しく解説してくれるサイエンスアーティスト。それが市岡元気先生だ。YouTubeチャンネル「GENKI LABO」には、約2000本のさまざまな実験映像が投稿され、チャンネル登録者は110万人にも上っている。たとえば「重力に反する物質 ネットで中国から買ってみた結果」は磁石と磁力線に関する実験で、再生回数は336万回。「ビスコから乳酸菌を取り出して顕微鏡で観察してみたら…」は再生回数292万回を記録している。さらに毎月1回、集まった子どもたちの前で実験を行う「実験教室」を開催、全国各地でのイベントでも科学パフォーマンスを披露している。そんな元気先生の人となりに迫ってみた。

サイエンスライブなら、より多くの人に伝わる

――― どのようにして今のサイエンスアーティストの仕事をするようになったのか教えてください。

ぼくは、子どものころから生物が好きで、よく森に行ってカブトムシやチョウチョを採っていました。学校でも算数や理科が、どちらかというとできる方で、クラスメートに分からないところを教えてあげると、「元気の話はとても分かりやすい」と言われることがたびたびありました。そう言われると自分でもうれしくて、いつの間にか人に教えることが楽しくなっていました。それで小学校の先生になりたいと思い、中でもDNAの研究もできる東京学芸大学に進学しました。

だから大学時代の友人たちはほとんど学校の先生になっています。ぼくも当然ながらそうなると思っていたのですが、卒業を前にした4年生になって進路を迷い始めたのです。実は学校の先生のほか、俳優という仕事にも興味を持っていました。小学校の先生だと相手にするのは一つのクラスで40人程度、学年全部を見るとしても2、300人です。でも科学実験のパフォーマンスを観客の前で行うサイエンスライブでは1000人規模の人に見せることができるし、観客を楽しませる演技的な要素もあります。それをテレビで放送すれば、視聴率1%でも百万人もの人が見ています。これはサイエンスライブの方がより多くの人に楽しく科学の面白さを伝えられるのではないか。そんな風に考え、サイエンスライブを行う会社に入りました。

トップ画像の背景にあるGENKI LABOのマークは、ベンゼン環とリンゴの組み合わせ。「ベンゼン環は6個の炭素原子が六角形状に結びついたもので、いろんな化合物の基礎になっています。リンゴは、ニュートンが万有引力を発見したエピソードで知られています」と語る元気先生

その会社での仕事はとても楽しかったのですが、いつしか疑問も持つようになりました。テレビではバラエティー番組に呼ばれることが多く、ほとんどが芸人の人たちのリアクションが面白くなりそうなものや、映像的に派手に見えるものばかり求められます。ただおもしろおかしいだけでなく、もっと科学に興味を持ってもらえるようにしたい。そう考えて2019年に独立し、YouTubeに投稿するようになりました。

大きく言えば、日本をもっと元気にしたい。それがぼくの願いです。今、日本の一人当たりGDPは、主要先進国中最下位です。資源のない日本が元気になるには、科学技術でリードするしかありません。世界のトップになる人材がどんどん日本から生まれてほしい。それには科学の裾野を広げていくことが大切です。それで、少しでも科学を楽しく感じ、興味を持ち、科学者を目指す子どもを増やしたい。そんな願いを込めて、現在の活動を行っています。

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実験テーマ選び いつもの暮らしの中にヒントが

――― 今の活動の内容を教えてください。

より多くの子どもたちに科学の面白さを知ってもらうYouTubeへの投稿がメインの仕事ですが、これは収入としては、材料費や準備費用などで赤字になることもあります。主な収入源となると、イベントなどで行うサイエンスライブや、商品の魅力を実験動画で伝える仕事ですね。

『石化復活液をアンモナイト化石にかけてみた結果が凄い!ナイタール液 Dr.STONE実験』

YouTubeでは8分以上、30分くらいまでの「ロング」が1週間に1本、1分から3分程度の「ショート」を1週間に3本くらい出しています。これから夏休みになりますが、夏休み期間は毎日1本ずつ出していきたいと思っています。

――テーマはどのようにして決めるのでしょうか? 毎日のように投稿するのは大変ではありませんか。

みなさんによく見てもらえるのは、奇をてらったものではなく、身近なニュースに関連するものです。たとえば昨日はロングを2本撮りましたが、そのうち1本は今話題の「ナフサ」です。石油由来の材料ですが、ナフサがないとインクや塗料が不足してしまうし、化学繊維でできた服も、プラスチック部品が多いトイレやキッチンもできなくなります。それでナフサってどうやってできるのか実験してみました。

『「原油」からナフサを抽出してみた!』

そのように話題のニュースから発想するものが多いですね。アニメやゲームなどからその内容を科学的に実験して再現することもあります。「こんなこと実験してくれませんか」と、YouTubeを見てくれる子どもたちからのコメントを使わせてもらうこともあります。たとえば「香水を凍らせてください」というものもありました。

何が面白い実験になるかはやってみないと分からないものもあります。世の中のあらゆることが科学につながっています。ですから日常の暮らしの中にヒントがあることも多いので、思い立ったらすぐメモをして、実験できないかどうか考えることが癖になっています。

実験の中には身近にある材料で、その場ですぐにできるものもあれば、準備に何年もかかるものもあります。奈良の大仏の金メッキの再現には2年かかりました。奈良の大仏はできたときは金メッキされていました。水銀と金を混ぜたものを表面に塗り、熱を加えると金だけが残るというものです。ぼくをモデルにしたミニ大仏を鋳造するのに1年くらい、そして水銀と金を使った実験のためにさらに1年の準備期間がかかりました。

『金30万円を水銀に溶かしてアマルガムメッキ法に挑戦!』

目の前でリアルに実験 子どもの目の輝きが変わる

――― 独立してすぐにコロナ禍になりましたが、どんな影響がありましたか。

前にいた会社はサイエンスライブの仕事が9割でしたが、そうしたライブはまったくできなくなりました。だけど独立してからYouTubeが主な活動になったので、それはコロナ禍でも影響されることなく続けることができました。広く社会全体でもオンラインでの仕事や教育が進んだので、そうした世の流れと適合した面があります。結果として、子どもたちに知ってもらえる機会が増えることになったのかもしれません。

――― YouTubeやサイエンスライブのほかにどんなことをしていますか?

今は毎月、この「GENKI LABO」(埼玉県三郷市)で実験教室を行っています。土曜、日曜の午前と午後の計4回、1回の参加者は100人くらいが限度になります。午前の部は基礎的な実験を楽しむもの、午後の部は学校ではできないチャレンジ実験を行うものです。リアルに目の前で実験を見ると、子どもたちの目の輝きが違ってきます。これは、ぼくのスタッフを中心にしてこれからも続けていきたいと思います。

遠くて、ここまで来られない子どものためには、「おうちLABO」をお届けします。これは毎月1回、だれでも安心して簡単にできる実験キットを自宅に届けるものです。子どもたちにとにかく楽しんでもらいたいので、毎回、詰め込みすぎるほど詰めて送っています。

「実験教室には遠くからも参加する子どもがいます。中には沖縄からわざわざやってくる子も。科学を好きになってもらえるように毎回さまざまな企画を考えています」

夏休みはぜひ科学イベントや自然との触れ合いへ

―――今後めざしていきたいことを教えてください。

できれば、実験教室ができる「GENKI LABO」を、ここだけでなく、全国47都道府県に作りたい。そうすれば、全国の子どもが目の前で実験を見ることができるようになります。それには、ぼく1人だけでは対応できません。ぼくと同じかそれ以上に科学の楽しさを伝えられる人を増やしていかなくてはいけません。だからサイエンスパフォーマーを一人でも増やすことも具体的な目標の一つです。

個人的にやりたい実験では、「錬金術」があります。昔からの人類の夢であり、錬金術によって科学が発展してきたということもあります。その錬金術を現実のものとして実験してみたい。理論的には水銀を核変換すれば金にすることができます。それを目に見えるかたちで行ってみたいと思っています。

―――経済産業省では、毎年夏休み期間中に子どもに広く社会を知ってもらい、経産省の仕事に対する理解を深めてもらおうと、「経済産業省こどもデー」を開催しています(今年は7月29、30日に開催)。元気先生は夏休みに子どもたちにどのように過ごしてもらいたいと考えていますか。

夏休みは、自分の時間をたっぷりとることができます。だから普段から興味を持っていることを、じっくりと調べてみると良いと思います。夏休み期間は、いろんな場所で科学に関するイベントが開かれます。何を調べたらよいのか分からなくても、そうしたイベントに足を運んでみると、興味が広がるかもしれません。また、家族で旅行する人もいると思います。部屋の中でゲームばかりしているのでなく、キャンプなどを楽しんで、自然と触れ合う体験をしてほしいですね。

【プロフィール】
市岡 元気(いちおか・げんき)
GENKI LABO代表取締役CEO、東京大学未来ビジョン研究センター客員研究員。

1984年、長野県出身。東京学芸大学教育学部初等教育教員養成課程理科専修を卒業。サイエンスショーを行う会社を経て2019年に独立。YouTubeでさまざまな実験を行う動画を発表しているほか、サイエンスライブ活動などを通して子どもたちに科学の魅力を伝えている。GENKI LABO

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