日本経済の生命線を守れ!インフラを支える「現場ファースト運動」が始動

電力やガス、石油などエネルギーの安定供給や社会インフラの維持は、日本の経済成長を支え、国民生活を守る国の生命線。こうした現場で働く人材は国にとって必要不可欠な存在だ。ところが今、貴重な現場人材の不足が深刻化しつつある。

このままでは国の産業競争力、地域のインフラ基盤、災害対応力が失われる恐れがある。人材の確保・育成を進めると同時に新たな技術を導入していくことで省力化や労働環境の改善を図り、現場の保安や施工を行う力を確実に維持していくことが求められている。

現場を取り巻く様々な課題を乗り越えようと、官民連携の動きが広がっている。

インフラ業務の現場の将来像

深刻化する人手不足。高齢化も加速

国の生命線を支えるインフラの現場は、人手不足の深刻化が懸念されている。

全国版就業構造推計(改訂版)によると、2040年にはAI・ロボットの利活用により、事務職で約440万人の余剰が生じる可能性がある反面、現場人材や専門職は大きく不足すると見込まれており、特にインフラを支える建設業では計約60万人が足りなくなると試算されている。また、2025年度に実施された「エネルギー需給の安定化等に向けた産業保安実態調査」によると、電気、都市ガス、高圧ガス、鉱山の保安人材に限っても、2040年には約5万人が不足する可能性があるという。

現状を見ても、建設業の就業者は1997年のピーク時から約3割減少しており、55歳以上が約4割を占めるなど高齢化も他産業を上回るペースで進んでいる。

出典:令和7年度新エネルギー等の保安規制高度化事業(エネルギー需給の安定化等に向けた産業保安実態調査)

「現場の力なくして、強い経済なし」

政府が「日本成長戦略」で描いた戦略を実行に移そうにも、土台を支える人員が不足していれば、絵に描いた餅となる。そこで経済産業省が国土交通省などの関係省庁と共にスタートさせたのが「現場ファースト運動(Frontline First Initiative=FFI)」。社会インフラを安全かつ持続可能なものとし、強い経済を実現するため、現場人材の確保・育成、AIやロボットの導入などを通じて現場が抱える課題解決を目指すイニシアチブだ。

2026年7月には、キックオフイベントとなる「FFI官民連携フォーラム」を開催し、関係省庁や業界団体のトップ、現場を担う企業、工業高校の生徒らが一堂に会した。

「半導体工場やデータセンター、電力の系統やガス導管等の保安や施工といった現場の業務を担う力なくして、持続的な経済成長も強い経済も実現することはできません。(中略)そのために人への投資、技術導入への投資、更には協力会社を含めたサプライチェーン全体の生産性向上を官民一体で強力に推進してまいります」

赤澤亮正経済産業大臣はあいさつの中で、「現場ファースト運動」の意義、推進に向けた決意をこう強調した。

「FFI官民連携フォーラム」でのあいさつで、現場の重要性について語る赤澤大臣

今後は、「人材確保・育成」「省力化・労働環境改善」の二つのテーマを扱うテーマ別検討会を設け、課題の整理や優先順位付けを進め、意見を集約する。人材確保・育成については、職種・技能レベルに見合う報酬体系の整備や人材育成などが、省力化・労働環境改善については、中小企業への省力化技術の導入支援や効率的な業務のあり方や技術の成熟度などを踏まえた保安関連制度の見直しなどがポイントとなる。

官民連携フォーラムやテーマ別検討会で得られた成果、人材育成や技術導入の好事例、各種支援制度やその活用事例などは、順次専用のサイトで公表していく方針だ。

技術者の技術・技能や経験とAI、ロボティクスを融合

人材確保や労働環境の改善については、すでに様々な現場で、対応が模索されている。例えば、発電所と工場や一般家庭をつなぎ、電力の安定供給を支えている送配電事業の現場だ。

少子高齢化で働き手が減少する一方、再生可能エネルギーの導入拡大やデータセンターの増設などにより、電力インフラの維持・更新はこれまで以上に重要性を増すことが予想されている。

そこで、業界団体の「送配電網協議会」は2040年に向けて、ドローンやAIの活用による巡視・点検の自動化、ロボティクスによる一部工事の自動化に向けた取組を進めている。2027年頃から導入・実証試験を進め、2030年代前半にはドローンポートの全国展開など取り組みを拡大・高度化し、2040年には巡視・点検業務や一部工事業務の自動化を目指すというロードマップを描いている。

こうした変化を実現するため、現場技術者は引き続き重要な役割を担う。そのため、送配電網協議会では、受け継がれてきた基盤技術・技能を保持しながら、デジタルやAIといった新たな技術も使いこなせる人材の育成を進めている。また、賃金などの処遇や職場環境の改善にも取り組んでいくとしている。

「AI、ロボティクスなど新たな技術の導入と、それを安全且つ効率的に活用できる現場技術者の育成。この二つを一体的に進めていくことが重要だと考えています。人と技術がともに成長して、将来にわたって電気の安定供給を支えていく。そんな送配電事業を目指したい」

送配電網協議会の白銀隆之会長(関西電力送配電代表取締役社長)は、FFI官民連携フォーラムで講演し、強調した。

「FFI官民連携フォーラム」には、電気等の社会インフラに関わる業界団体や現場を担う企業、工業高校の生徒、関係省庁が一堂に会し、基調講演やパネルディスカッションなどが行われた

風力発電所を一元的に遠隔監視・制御

実際の動きも、既に始まっている。

ユーラスエナジーホールディングス(本社:東京都千代田区)は、全国各地の風力発電所を集中遠隔監視・制御することで業務を省力化した。

風力発電所の監視業務は従来、発電所の事業所員が実施していたが、夜間の保安や緊急連絡体制の確保など事業所員の負荷が大きく、更には夜間の軽微なアラームによる発電停止で金銭的ロスが発生するといった課題を抱えていた。そこで、ユーラスエナジーホールディングスは、集中監視とデータ分析を一体化した運用基盤を構築。具体的には、メーカーごとに異なるシステム仕様・アラーム体系を標準化し、全国の発電所を一元的に監視・制御できる環境を整備するとともに、主な事故原因の一つである落雷に対応するため、蓄積データの分析により雷雲接近時の停止・再稼働の条件を最適化した。

これにより、業務量の年間約77000人時(にんじ)※削減を実現し、0.3~0.4%の稼働率向上が可能となった。さらに作業員の労働環境の改善や異常の早期発見にもつながっているという。

※人時…1人が1時間かけて完了できる作業量のこと。英語では「マンアワー」と表現される。

風力発電所の集中遠隔監視・制御を行う様子(現場ファースト運動先行公表サイトより)

ユーラスエナジーホールディングスの取り組みの詳細はこちら

協力会社の人材育成を支援

九州電力送配電(本社:福岡県福岡市)は、少子高齢化や熟練工の減少という課題に対応するため、人材育成への新たな取り組みをスタートさせた。送電工事の発注先である協力会社の新人の技術研修や資格取得など人材育成に要する費用の一部を、発注元の九州電力送配電が工事費用に織り込むというものだ。

2026年8月末時点で、協力会社の新人36人の育成に、この仕組みを活用。協力会社の新人採用や早期離職の防止に効果を発揮しているという。九州電力送配電としては、協力会社に対して定期的にヒアリングを実施することで、協力会社それぞれの状況を確認しながら、サプライチェーン全体で人材育成の強化につなげていきたい考えだ。

送電工事には確かな技術・技能と豊かな経験が不可欠だ(現場ファースト運動先行公表サイトより)

九州電力送配電の取り組みの詳細はこちら

成長の「ドライバー」にサプライチェーン全体で投資を

人材の確保・育成を巡っては、戦後、多くの現場を担う人材を輩出してきた、全国の工業高校と連携して、人材の獲得・育成を進めていく構想もある。例えば、行政が企業と工業高校を仲介し、企業側が工業高校に対して教材となる資材を提供したり、生徒が実際の現場で仕事を体験する実践的インターンシップを実施したりする仕組みづくりが、検討されている。

「いくら資金があっても人がいなければ、例えばデータセンターを建て、事業に必要な電気を送るといったことはできませんし、安全に動かし続けることもできません。まさに経済成長を下支えする『ドライバー』となる現場の人材が足りなくなってきているというのが、現在の状況です。経済産業省としては、発注者や協力会社といった従来の垣根を越え、企業がサプライチェーン全体を見た上で、現場の人材の確保・育成や省力化・労働環境改善に繋がる技術にしっかりと投資していくよう促していきたい」

「現場ファースト運動」の事務局を担当する経済産業省保安政策課課長補佐の髙村昇平さんは、こう話している。

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