「日本スタートアップ大賞2026」の受賞企業が2026年9月25日に決定しました。「HOTパーソン」で取材した『Oishii Farm』が「農業スタートアップ賞」を受賞。これを記念し、同社の挑戦をご紹介した記事をあらためて掲載します。
日本スタートアップ大賞は、社会課題の解決や新産業の創出に挑戦するスタートアップを表彰し、社会全体で起業への機運を高めることを目的とした、経済産業省主催の国内最大級のスタートアップ表彰制度です。
日本の高品質なイチゴを米ニューヨーク近郊の植物工場で生産しているのが、「Oishii Farm(オイシイファーム)」。大手高級スーパーのホールフーズ・マーケットなど米東海岸の約300店舗の食料品店で販売している。以前はアメリカでは手に入らなかった、日本生まれの甘くておいしいイチゴはたちまち評判を呼び、高価格にもかかわらず注文が殺到するようになった。オイシイファーム共同創業者兼CEOの古賀大貴さんは、「Forbes JAPAN」2025年1月号の特集「日本の起業家ランキング2025」で10位に選出されるなど、新しい時代を切り開く起業家として注目を集めている。古賀さんが見据えるのは、世界的な食料危機への対応だ。「植物工場は天候など自然環境に左右されず、世界中どこでも同じ品質の農作物を作ることができます。近い将来必ずやってくる世界的な食料危機の解決の糸口が、この植物工場にあります」と古賀さんは力を込めて語る。
渡米初日の衝撃 野菜やフルーツが「おいしくない」
――― まず、オイシイファーム設立の経緯について教えてください。
子供のころから、何か日本のモノで、世界につながるビジネスをしたい、と漠然と思っていました。でも自分に何ができるのか、何をしたら良いのか、なかなか見つかりませんでした。そこで大学卒業後、自分のやるべきことを探そうと、さまざまな業種と関係を持つことができるコンサルティングファームに就職したんです。
もともと農業にも関心があって、働きながら、夜間の農業の学校に通ったこともあります。農業は全体としては自動車産業に匹敵するような、ものすごく大きな産業なのですが、日本では基本的に、一般の民間企業は農業分野に参入することが難しい。そして、日本の農業生産の技術自体はすごく高いのですが、他の産業と比べてDX化が進んでいません。ビジネス経験がある人もほとんどいません。そして農業は人間が生きていくうえで絶対に必要なのに、現実を見ると高齢化、後継者不足で衰退しつつありました。だからこそ、大きなチャンスがここにある、と思いました。そのうちに会社内にも農業に対応するチームができて、私も手を挙げました。そこで知ったのが、天候や季節に関係なく1年中農作物を生産できる植物工場でした。
自動化されたオイシイファームの植物工場
植物工場は、日本で技術開発が進んでいました。そもそもLED照明や空調設備を使って何かできないか、というところから始まり、さまざまな人や企業が参入していました。ところが、当時は工場で栽培できたのはレタスなどの葉物野菜だけでした。でも葉物野菜って品質や価格で差別化することが難しい作物です。だから利益が出にくく、参入者の多くが撤退していきました。
そんな植物工場の可能性を考えていたときにMBA取得のためにカリフォルニア大学バークレー校に留学しました。渡米した初日に地元のスーパーに行って衝撃を受けましたね。野菜やフルーツはたくさんあるのですが、どれも日本のものほどおいしくないんです。日本の野菜やフルーツをアメリカで作れないだろうか、という発想はそこから生まれました。
特に日本のフルーツは世界に類を見ないほど品種改良などの技術開発が進んでいます。アメリカのニューヨークには、高品質な「食」を求める文化がありますがイチゴは6000㎞も離れた西海岸から長い時間をかけて運ばれてくる。輸送に耐えられるように硬く、新鮮ですらない。
植物工場なら特定の気候でないと生産できないイチゴも1年中作ることができます。世界初の農業ブランドを築くためにはまず、ニューヨークで日本生まれのイチゴを売り出すことだ、と思いました。それで、それまで縁もゆかりもなかったニューヨークに飛び込みました。
「自然環境に左右されず、1年中安定的に農作物を生産できる。植物工場によって、これからの農業は大きな変革期を迎えます」と自信を持って語る古賀さん
手製の工場でイチゴ生産始動 ハチの受粉の壁破る
――― 植物工場でのイチゴの生産は、すぐに軌道に乗ったのですか?
仲間と3人で、中古の冷蔵コンテナを日本円で70万円くらいで買って、日曜大工みたいに手作りで改装して簡易な工場を作ったのが始まりです。最初は1パック6個入りで、1日10パック、20パックぐらいしか作れませんでした。当時の我々をイチゴ農家の人が見たら「何やってるんだ」と笑ったことでしょう。
イチゴなどの果菜類のフルーツや野菜には、ハチの受粉が不可欠です。日本でも、温室栽培ではハチを使って受粉させています。ところが、植物工場では受粉がうまくできた例がありませんでした。農業関係者100人に話を聞くと、100人全員が「無理」だと言います。
でも、温室でできる以上、植物工場でもできるはずと必死で可能性を探りました。受粉がきちんとできないとビジネスとして成立しませんから。工場内を自然環境と同じだとハチに感じてもらう。そのために、気温、湿度、二酸化炭素濃度をどう調整するか。ほかにも気づかない要素があるのではないか。手探りでいろんな可能性を探りました。試行錯誤を重ねて2年目くらいから次第に受粉できるようになり、5年目には技術を確立できました。今では受粉率は95%で、既存のイチゴ栽培よりもはるかに高い確率になっています。
2024年6月にニュージャージー州で稼働した世界最大級の植物工場。AIを用いた独自の技術によって室内でのハチによる受粉を可能にし、年間を通して高品質な日本のイチゴを生産している
ニューヨークの三つ星レストランで、コースの締めに
――― どのようにして販路を広げていったのでしょうか。
初めは1日に生産できる量は限られていました。我々のイチゴをブランド化するには、一流レストランで使ってもらうことが1番。そう考えて、ニューヨーク中のミシュランの星がついたレストランに、COOと手分けして飛び込み営業をしました。食べてもらえさえすれば、品質の良さはわかってくれました。
その中で、ディナー1食が日本円で10万円も20万円もする三つ星レストランのシェフに我々のイチゴをゆだねました。するとシェフは、ディナーコースの最後に、皿に載せただけで何も手を加えないイチゴを出しました。それが評判になりましたね。「このイチゴをぜひ手に入れたい」とセレブの間で、あっという間に広がりました。最初は1パック50ドルという高価格でしたが、受粉の成功などで次第に量産体制を整えてコストダウンしていきました。今では1パック10ドル前後まで下げることができ、高級スーパーなどにも販路を拡大しています。
――― ほかにはどんなものを手掛けていますか?
まずはイチゴから始めましたが、おかげさまで需要がとても多くて、供給がまだ追いついていないのが現状です。今はトマトも生産しています。そしてメロンも栽培実証が終わっております。ハウス栽培できる作物は基本的にすべて工場生産できると考えています。
「アメリカに住んで約10年。1番ほっとするのは、羽田空港に降りたときですかね。何も趣味がないのですが、日本の料理を食べるのは大好きです」と言う
植物工場が食料危機対策に 日本は優位な位置
――― 植物工場の可能性はさらに広がりそうですね。
地球温暖化が進み、世界中で食料生産が危機を迎えています。農業はただ畑に種をまいて生産するだけでは、自然環境に大きく影響されます。高齢化や後継者不足も深刻で、日本では2050年には農家の80%が農業から離れてしまうと予想されています。そんなときだからこそ、どんな自然環境にも影響されずに安定的に農作物を生産できる植物工場が必要になると思います。日本ではたまたま植物工場の開発が先行していました。一方、世界では、地球温暖化でサステナブルなビジネスが急速に注目されています。食料危機が必ずやってくると考えられる中で、サステナブルな植物工場は、急に大きなビジネスモデルとして注目されるようになりました。
工場内では、ロボットが24時間イチゴの成長を見守りながら、完熟したタイミングで自動収穫し、オペレーションの効率化を図っている
農業はこれから、大きなパラダイムシフトを迎えことになるでしょう。工場生産化はさらに進み、米や小麦などもいずれ工場で生産できるようになります。近い将来には、農業は、自動車産業などと同じように企業化していくことになります。そして就農というと、田舎に行って農地を耕すのではなく、普通に会社に就職するのと同じように、植物工場の会社に就職し、都市部近郊の工場に通うという時代になるのではないか、とも考えています。
――― 新たな研究開発拠点を日本に設置することを決めたのは、どうしてですか?
まず、温室栽培などの施設園芸の技術を持っているのは、日本とオランダだけです。そして、日本は植物工場の開発で先行しており、LEDや空調などの高い技術をもったメーカーがたくさんあります。つまり、植物工場には、施設園芸と高い技術のある工業が必要ですが、その両方ですぐれた人材が豊富にいるのは日本だけなんです。
私たちは、NTT、安川電機など、農業、工業に限らずさまざまな分野の企業と協力しています。そうした企業と一緒になって、新しい研究開発拠点で、植物工場の量産モジュールを開発。それをプラットフォームとして世界に広げていきたいと考えています。
まず行動を起こし、最初から世界を狙っていこう
――― 幼少期はどんな少年でしたか?
小学生のころまで、両親の仕事の関係で海外に住んでいました。通っていたインターナショナルスクールには50か国くらいから子供たちが集まっていたのですが、みんなアメリカ以外の国のことは全く知りませんでした。でも、日本だけは「トヨタ」や「ドラゴンボール」「ポケモン」など知らない子はいないくらいでした。そのころから、日本というのは、実はすごい技術や文化を持っているのだと思っていました。そしてその日本に関係することで、何かを成し遂げたい、と考えていたのです。
子供のころは優秀だと言われたことなんかありません。根拠のない自信だけを持った子でした。大学生くらいから、人生をかける何かを見つけなくてはという焦りがあり、とにかく打席に立ち続けなくてはいけない、と考えました。そうしてもがいているうちに、農業と出合い、植物工場を知った。温暖化が進む中、たまたま、世界では植物工場に時代の流れがきていたんですね。28歳のころには、世界的にも植物工場に詳しい人間になっていたと思います。
今振り返るとすべてがうまくいったように思えるかもしれませんが、そのときそのときは無我夢中。たとえリスクはあっても、「思い立ったら即、行動」。これを原理原則として走ってきました。私自身はバッターとしては特に能力は高くないと思います。でもひたすら打席に立ってバットを振りまくった。とにかく人より多く打席に立とうとした。そのうちにたまたまボールにバットを当てることができた、という感覚ですね。
――― これから起業を考えている若い人たちに何かアドバイスをお願いします。
自分が誰よりも情熱を持てるものを、とにかく早く見つけてもらいたいですね。自分には才能がない、などとあきらめないでほしい。誰にも負けない情熱さえあれば、最後には、才能があるだけの人に勝つことができます。そして、もしそこにチャンスがあるのであれば、日本として強みがあるもので、最初から世界を目指してほしい。そういう若い起業家が数百人いれば、本当に世界レベルで闘って成功する人が何人かは出てくるのではないでしょうか。世界を変えるのは人一倍パッション、情熱を持った人だと思います。起業するなら、ぜひとも情熱を持って世界にチャレンジしてもらいたいと思います。
【プロフィール】
古賀 大貴(こが・ひろき)
Oishii Farm 共同創業者兼CEO
1986年、東京生まれ。2009年、慶應義塾大学卒業。コンサルティングファームを経て米カリフォルニア大学バークレー校でMBAを取得。同校在学中の2016年に「Oishii Farm」を設立。2017年から米ニューヨーク近郊で植物工場を稼働。独自のハチ受粉技術を開発し、日本品種の高品質なイチゴ、トマトの量産体制を確立した。2025年に世界最先端の植物工場の研究開発拠点「オープンイノベーションセンター」を東京都羽村市に設立する。
The post 「日本スタートアップ大賞2026」受賞!日本のイチゴがNYセレブから注文殺到 「AI×植物工場」の農業で世界を獲る first appeared on 経済産業省 METI Journal ONLINE.