安全な充電で、快適なスマホ生活!モバイルバッテリー事故防止へ国、企業の取り組みは…

誰もが日常的にスマートフォンを持ち歩く時代となった。そんな中、スマートフォンなどの充電に使われているモバイルバッテリーの事故が頻発している。いずれも内蔵されているリチウムイオン蓄電池が発火、発煙するといったものだ。このため、経済産業省も関係省庁・事業者とともに、事故の未然防止に力を入れている。

「挑戦を支える、安全という基盤。」最終回は、モバイルバッテリーの事故防止という私たちに最も身近な製品を巡る行政、民間の取り組みに焦点を当てる。

発煙するモバイルバッテリー(NITE提供)

モバイルバッテリー事故は4年で4倍に

2025年7月、JR山手線車内で、乗客がスマートフォンを充電していたモバイルバッテリーが発火し、山手線が大幅に遅延する事態が発生。発火したバッテリーは2023年6月にリコールが開始されていた製品だった。同じく2025 年9月には、東京都杉並区のマンション一室が燃える火災が発生、男女6人が軽症を負った。報道によると、火元の住人女性が就寝中にスマートフォンをモバイルバッテリーで充電していたところ、発火したという。

モバイルバッテリーの事故は年々増加の一途をたどっている。独立行政法人「製品評価技術基盤機構」(NITE)によると、2025年のモバイルバッテリーの発火などによる事故は192件で、2021年の51件から約4倍に増えている。

モバイルバッテリーによる事故発生件数の推移(NITE提供)

電安法の規制対象化など国も本腰

国は2018年2月にモバイルバッテリーを「電気用品安全法」(電安法)の規制対象に加えるとともに、適用する技術基準の強化を図ってきた。対応が不十分な事業者に対しては行政指導を実施。2026年2月にはモバイルバッテリー関連事業者81社に対して、製造・品質管理体制や安全に関する事項について、改めて確認を要請する文書を送付し、その後、フォローアップ調査も実施している。

また、近年、海外の事業者がオンラインモールなどを通じて、国内の消費者に対して直接製品を販売するケースが増えていることから、2025年12月にはオンラインモールなどを通じて国内の消費者に製品安全4法※の規制対象製品を直接販売する海外事業者についても規制対象とし、製品安全4法に基づく技術基準への適合などを義務づけた。あわせて、ネットを通じて粗悪品が出回るのを防ぐため、オンラインモールやECサイトのネットパトロールも継続的に実施している。

※製品安全4法…消費生活用製品安全法、電気用品安全法、ガス事業法、液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律の総称。

「第三者機関による適合性検査」を義務化へ

さらに経済産業省は2026年8月、新たな安全規制強化策を打ち出した。

柱となるのは、①技術基準の強化②品質管理措置の義務化③政府の登録を受けた第三者機関による適合性検査の義務化―の三つ。これにより、設計から製造工程まで一貫した安全確保を図り、第三者機関による適合性検査などを経たモバイルバッテリーのみが市場に流通する仕組みを構築したい考えだ。

三つの柱のうち、第三者機関による適合性検査については、これまでの事業者自らの「自己確認」に追加して実施が求められる。これによって、製品に表示されるマークも「〇PSE」から「◇PSE」に変更されることになる。(下図参照)

経済産業省としては、今後、技術基準や品質管理措置などについて具体的な検討や実施体制の整備を進め、年度内に関連政省令の改正を予定している。

行政指導を受け、「製造工程の一つひとつを改めて点検」

一方、モバイルバッテリーの安全対策については、関連する企業も危機感を持って対策を強化している。スマートフォン向けモバイルバッテリーの分野で世界シェア1位の「Ankerグループ」もその一つ。日本法人の「アンカー・ジャパン」(本社:東京都港区)は2025年10月、リコールについて、経済産業省から行政指導を受けている。

執行役員・コーポレート本部長の井田真人さんは「行政指導後、製造工程の一つひとつを改めて点検し直し、徹底的に強化しました」と語る。

具体的には、製造工程を構築している全てのサプライヤー企業について監査を実施。品質基準を一段と厳しくした上で、サプライヤー各社の技術水準や品質・体制管理の状況をチェックし、取引を継続するかどうかも含めて、判断していったという。

全サプライヤーに独自の管理システムを導入

調査・検証していく中で、不具合が発生する一部要因として、工程で問題があった製品を手直しする「リワーク」がルールを逸脱した形で実施されたケースが確認された。このため、改善策としてAnkerグループ独自の製造現場管理システム「Manufacturing Execution System(MES)」を導入し、全てのサプライヤーに展開した。

これによって、上流から下流までの全工程で、原材料管理が適切に実施されているか、登録されていない部材が混入していないか、正しい手順で進められているかなど、一元的に把握できる体制を築いた。

「通常通りの作業をいかに続けていくか、日常的にコントロールしていくことが非常に重要です。工程ごとの重要ポイントをいかに守り切れるか、それが最終的に品質トラブルを防ぐことにつながっていくと考えています」と井田さんは話す。

「製造工程一つひとつを改めて点検し直し、徹底的に強化しました」と語る井田さん

「うれしくない報告は改善のきっかけ」―窓口を重視

アンカー・ジャパンでは、例えば釘を刺しても、車でひいても発火しない「Neo Lithium-ion Battery(ネオリチウムイオンバッテリー)」や電池の状況を管理できる「バッテリーマネージメントシステム」を搭載した製品の展開により、より安全性に特化しながらも、充電速度やコンパクトさといった利便性も追求した製品の企画・販売を強化しているという。

ただ、品質基準をクリアした安全性の高い製品を製造していても、人が使うものである以上、品質トラブルを100%防ぐことは現実的には不可能だ。そこで重要視しているのが、問い合わせ窓口の存在だ。カスタマーサポートを含めた問い合わせ窓口を内製化し、自社の組織内での位置づけを明確化している。

「事故の報告があれば、すぐに私まで上がってきます。その上で関係機関への連絡や、必要とあれば製品の回収、原因調査、対策までルールに則って実施していきます。私たちにとって、うれしくない報告もありますが、改善のきっかけと捉えています」

井田さんはこう強調する。

約6万3000台のスタンドを展開。発火事故は0件

スマホバッテリーのレンタルサービス「CHARGESPOT」を運営する「INFORICH」(本社:東京都渋谷区)は2026年7月、1億回レンタルを達成した。サービスを開始してから8年。この間、落下や水没、不法投棄といった不適切な取り扱いが原因となったものを除けば、発火事故は0件という。

執行役員・CPO(最高製品責任者)の広瀬卓哉さんは、「厳格な管理によって安全なものだけを貸し出すことに、最も力を入れています。」と話す。

CHARGESPOTは、駅やコンビニ、ドラッグストア、公共施設などに設置された「スタンド」から、アプリを通じて簡単にモバイルバッテリーを借りたり、返却したりできるサービス。国内には約6万3000台のスタンドを設置しており、台湾や香港、中国本土やシンガポール、豪州、英国など、海外でもサービスを展開。2026年6月末時点で、約9万3000台のスタンドが世界中で稼働している。

「厳格な管理によって安全なものだけを貸し出すことに、最も力を入れています」と話す広瀬さん

バッテリーの状態をネットを通じて管理

モバイルバッテリーの事故は、使い続ける中で、リチウムイオン蓄電池が劣化し、発火・発煙するに至るケースがほとんど。貸し出し、返却が繰り返される中で、どのように安全性を確保しているのだろうか。

CHARGESPOTは、スタンドに貸出用のモバイルバッテリーを投入した段階で、温度や充電効率など、バッテリーの状態に関する情報がインターネットを経由してINFORICHのサーバーに送られるシステムを構築。劣化が検知されたものにはロックが掛かり、貸し出せない仕組みになっている。

さらに全国に約2万7000人いるオペレーションワーカーが、異常を検知したバッテリーを迅速に回収する。投入から1年以内で約80%が回収され、状態に問題がない場合でも、最長3年で回収するという運用を徹底しているという。

「8年間かけて検知能力を高めてきたことで、自信を持って『安全なものだけを貸し出しています』と言える状況をつくることができました。安価だからといって、ネットで製造元の不確かな製品を購入するのであれば、私たちが自信を持って送り出している安全なバッテリーを利用してほしい」

広瀬さんは、自信を示す。

官民一体で安全性の向上を目指す

アンカー・ジャパン、INFORICHの両社はいずれも、官民一体となって展開している「リチウムイオン電池安全啓発キャンペーン」の賛同企業だ。国や自治体とも連携して、モバイルバッテリー・リチウムイオン電池の正しい「選び方」「使い方」「捨て方」について、学校への出前授業や自社の媒体などを通じて情報発信を続けている。

リチウムイオン電池安全啓発ポスター。CHARGESPOTのデジタルサイネージなどに掲載されている

経済産業省製品安全課課長補佐の川目真悠さんは、モバイルバッテリーの安全性の向上に向けては、民間企業の協力も必要と話す。

「経済産業省としては、発生した事故の状況などを踏まえて、迅速な対応が必要と判断し、今回の制度改正を検討しているところです。民間の事業者の中には、独自に対策を行っている方々もいらっしゃいますが、事故の発生状況を踏まえ一定の規制強化が必要な段階となっているところであり、事業者の御理解・御協力をいただきながら、安全対策の強化を進めていきたいと考えています。また、併せて、消費者に対し安全な製品の選び方・使用方法などについても普及啓発を行うことにより事故を防止するよう努めてまいります」

※本特集はこれで終わりです。次回は「地域に企業を。日本に活力を。」を特集します。

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